涙は流したくない。 そう望んだ。 だけど。 今だけは、涙を流したい。 スランドゥイルは王宮からさほど遠くない、森が開け、一面が花で埋め尽くされている野原に来ていた。 王子としての仕事も無く、これと言ってする事も無かったので、久方振りに散歩をする事にしたのだ。 彼にとって、散歩は久し振りの事である。 エルフと人間が最後の同盟を結び、共に戦ったあの合戦以来、仕事が山のようにあった。それを終えるまでは森に出る事すら出来なかったのだから。スランドゥイルは久し振りの森を、ゆっくり歩きながら満喫していた。 腰を下ろした場は花畑。彼はよくここを訪れていた。 頭に乗せる冠の材料は、様々な草花が生きるこの場で摘まれていたからである。 「癒されるというか、心が和むな。ここに居たら」 スランドゥイルはそう呟き、目を閉じた。 いろんな事があった。 憎いノルドールの中でも、友と呼べたギル=ガラドが倒れ、尊敬していた父であるオロフェアも倒れた。仲間のエルフは3分の2、失った。 どの種族も多大な犠牲を払いながら戦った。それなのに指輪は残った。忌まわしい、あの指輪は破壊されなかったのだ。 「・・・・平和は訪れない・・・それもこの中つ国の運命か・・・・」 思えば、いろんなものを失ってきた。 仕えた王を失い、生まれた森を失い、移り住んだ明るい森は、今や暗く淀む森になってしまっている。そして仲間、友、父を失った。 「・・・波乱万丈な人生だが・・・・悪くは無い・・・・」 そしてこの森は、王であったスランドゥイルの父・オロフェアを失った事によって、王子であったスランドゥイルが王となる。 王子であった頃よりも責任は大きく、守るべきものも増える。 合戦後の仕事を終え、他のエルフたちとしても一息終えた今。スランドゥイルの戴冠式が行われる。きっと今頃王宮では、その準備に取りかかっているだろう。王宮に戻れば、スランドゥイルは王だ。 弱音は吐けない。(もとより吐いた事はないが) 民を、森を、守らなければならない。 だが今は。 スランドゥイルは空に飾られた太陽を見、太陽に向かって呟いて、彼は一粒の雫を零した。 「失ったものへの哀しみに、涙を流しても、誰も何も言うまい。 見ているのは、森と花と、皆を照らす太陽だけなのだから」 初めて大切なものを失ってから、強く生きる事を望んだ。 涙など流しては、きっと心が砕かれるだろうから。 泣かない事を望んだ。それを貫いてきた。 だけれども。 失いすぎた、大切なものを。 顔を膝にうずめて、涙を流した。 顔を挙げたら、今までの自分に戻るから。 今だけは。 スランドゥイルは生まれて初めて、大声を挙げて泣いた。 愛しいもの、今はない愛しいものを思いながら。 何だ、これ。 スランドゥイル様は、エルフの中でも類を見ない程の、多くの哀しみを背負って生きていると主張したい。 時間は五軍の合戦から、1年も経っていないくらい。 スランドゥイル様は更にこの後、バルドを失い、妻をも失う。 更に時を進めると、息子・レゴラスも失う。 まぁ、レゴラスに関して言えば、彼は西の国へ行った訳だから、スランドゥイル様が西へ行くか、考えたくないが、彼がマンドスへ旅立てば会える・・・・はず。 レゴラスの母親、つまりスランドゥイル様の妻はぁ、my設定だと、大蜘蛛にやられてマンドスへ行きました。 |
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